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2018年5月31日 (木)

麻しん

 沖縄で3月から始まった麻しんの流行から、福岡県でも4月末に患者の報告があり、5月上旬には糸島市在住の患者の報告がありました。厚生労働省や県の保険機関の緊張が高まり、医師会を中心に開業医や感染症を診る総合病院は現場での対応に追われました。
 なぜ麻しんの患者が一人出ただけで大騒ぎになるのでしょうか。それは麻しんが最も感染力の強い病気の一つで最新の医療をもってしても死に至ることがある病気だからです。インフルエンザに免疫を持たない集団に1人のインフルエンザ感染者がいたとすると2~3人の人が感染しますが、同じ条件で麻しんの場合は16~21人の人が感染してしまいます。麻しんはインフルエンザの9~10倍の感染力があるといえます。麻しんは、患者のくしゃみ飛沫などに含まれるウイルスを鼻や口から吸いこんで感染する「飛沫感染」、ウイルスが付着した患者の体や物に触れることで感染する「接触感染」のほか、空気中に漂うウイルスの飛沫核(飛沫の水分が乾燥した微粒子)を吸い込む「空気感染」でも感染します。インフルエンザでは患者から2m以内に近づいて濃厚な接触をすることによって感染します。しかし、麻疹は廊下ですれ違っただけで感染するくらい感染力が強いのです。
 しかも麻しんはインフルエンザのタミフルのような治療薬がありません。過去の流行時には乳幼児を中心に死亡する事例がありました。患者1000人に対して約1人の死亡があると言われています。死亡例は激烈な肺炎や脳炎です。そして麻しんには亜急性硬化性全脳炎という合併症があり、これは麻しんが一旦よくなった後に数年してから脳炎になって死亡するという恐ろしい病気です。麻しん患者の約10万に一人がなると言われています。
 予防接種の普及で日本から麻しんは無くなった病気でした。日本は麻疹について、日本固有の麻しんウイルス株が存在しない「排除状態」にあると2015年にWHOから認定を受けました。しかしその後も麻しん患者の報告があります。これは外国人が日本に持ち込んだ輸入麻しんと言われるものです。今回の発端者も台湾からの旅行者でした。
 典型的な麻しんの経過は、ウイルスに罹患して10~12日で発熱で発病します。鼻汁や咳はひどくなり、口の中の頬の内側に1㎜くらいの小さな白い粒が診られます。これをコプリック班といって麻しんの初期の診断の目安になります。4~5日後に赤い発疹が顔から体そして手足へと広がります。
 今は多くの人が麻しんワクチンを接種しています。麻しんワクチンを接種していても麻しんになることがあります。それはワクチンの1回の接種では効果が95%なため1部の人は発病します。2回接種したらほぼ100%の効果がありますが、非常にまれに発病します。ただし病像は不完全なことが多く、初期の鼻汁や咳がほとんどなくコプリック班もないことが多く診断が難しくなります。
 麻しん患者もしくは麻しん疑いの患者を診たら医師はただちに保健所に届けると法律で定められています。保健所に届を出したら、麻しんウイルスが体にいるか検査をします。血液や尿を採取し、喉の奥を綿棒のようなものでこすってウイルスをつかまえて検査に出します。検査は医療機関で行いますが、この際には他の患者さんなどと絶対に接触しないように個室隔離で検査をします。保健所の職員が立ち会い採取した検体は県の機関で調べます。調べる方法もウイルスの遺伝子の存在を調べる方法で、結果はまず間違いがありません。検体の提出から半日くらいで結果がでます。
 検査で麻しんウイルスの存在が証明されたら、自宅での安静加療となります。感染可能期間内(麻疹発症前 1 日から解熱後 3 日を経過するまで)は可能な限り他の人との接触は避け、公共交通機関や人が集まる施設を使用しないように指導されます。
 そして麻しんを他の人に感染させる可能性がある発病1日前から診断がついた日までの、患者の立ち寄り先や接触した人をしっかり調べられます。接触した人で感染した可能性がある人は、接触者で要観察とされ、発病のあそれがある3週間後まで毎日保健所などから体調の問い合わせの電話があります。
接触者とは以下のような人です。
① 世帯内居住者:麻疹患者と同一住所に居住する者全員。
② 直接対面接触者:手で触れること、会話することが可能な距離(2 m 以内)で、麻疹患者と対面で会話や 挨拶等の接触のあった者であり、事務職員を含む医療機関職員、待合室等で同室となった 患者などである。これらの場合、接触時間は問わない。
③ 同一空間の共有者:空調が共通の空間に麻疹患者と同時に滞在していた者。患者がその空間から離れた後 少なくとも 1 時間(最大 2 時間)以内にその空間に滞在した者は、患者と同一空間を共有 したと考える。
とにかく麻しん患者の発生があったら、行政も医療機関もたいへんです。しかし一番たいへんで不自由をするのは患者さんとその家族です。麻しんを予防するにはワクチンしかありません。定期接種をしっかり受けてください。

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