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2017年11月29日 (水)

村中璃子氏、ジョン・マドックス賞を受賞

 私のクリニックがある糸島市は人口が約10万人です。市の乳幼児健診に毎月出務していますが、1回に約30人の乳幼児を診ています。最近、予防接種を受けないという考えの保護者をよくみるようになりました。以前はほとんどなかったのですが、毎回1組くらいいらっしゃいます。麻しんになれば今でも命を落とす子どもはいます。風しんは妊娠中に母親がなったら赤ちゃんに障害が出ることが2013年の流行では社会問題になりました。ヒブと肺炎球菌ワクチンが始まる前は、ヒブや肺炎球菌で髄膜炎になった子どもを何人もみました。後遺症を残した子もみました。ヒブは喉頭蓋炎で突然窒息して亡くなった子どもの経験もあります。それらの病気がワクチンが始まったあとは嘘のようにみなくなり、ワクチンの効果の大きさを実感しました。しかしワクチンを接種しない選択をした保護者にはそのような話をしても考えは変わらないようです。裏を返せば、患者さんたちの医師への信頼がなくなってきているのかもしれません。今は大学進学時には予防接種歴を問う大学も多くあります。学校の寮に入るときは髄膜炎菌ワクチンを接種をすすめられることもあります。ワクチン接種歴がないと海外の学校へは留学できません。ワクチンを接種しない不利益は増えてきていますが。
 
 ところで11月30日、医師でジャーナリストの村中璃子さんが、イギリスの一流科学誌「ネイチャー」元編集長の功績を記念したジョン・マドックス賞を受賞したというニュースが発信されました。「ネイチャー」は世界で最も権威のある科学雑誌の一つです。ジョン・マドックス賞は今年で6回目、世界25カ国100人以上の候補者から村中さんが選ばれ、日本人としては初の受賞です。村中さんの受賞理由は、日本においてHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)ワクチン=子宮頸がんワクチンの安全性を検証する発信を続けてきたことでした。ジョン・マドックス賞の対象は、「多くの困難や敵意に遭いながらも、科学的なエビデンスに基づき公益に寄与する仕事をした科学者・ジャーナリスト」です。
 
 日本では国民の多くが子宮頸がんワクチンは副反応が怖いワクチンと思いこんでいます。定期接種には残っていますが、厚労省も接種を積極的には薦めず、誰も接種しようとはしません。理由はワクチンの副作用とされるけいれんのような異常な体の反応と、車椅子に頼らざるを得なくなった患者の映像が繰り返しメディアに流れたからです。そして患者団体は国と製薬会社を相手に集団訴訟をおこしました。一度、国家賠償請求訴訟がおこると裁判が終わるまでには約10年かかります。その間、訴訟が終わるまで、国、厚労省は接種再開を決断できないだろうとも言われています。
 
 小児科医も産婦人科医もほとんどの医師たちは、メディアに流れた映像すべてをワクチンのせいにすることには懐疑的です。なぜなら子宮頸がんワクチンが始まる前からメディアに流れた症状の思春期の少女をみているからです。医師たちは毎年、子宮頸がんで約3,000人の女性がなくなり、死を免れても約10,000人の女性が癌のため子宮摘出をしている現実を憂いています。悲惨なのは子宮頸がんになるのは若い女性が多いことです。
 私のクリニックでもここ数年は子宮頸がんワクチン接種者はゼロです。しかし私は自分の娘には接種をしました。娘には子宮頸がんにはなってほしくはありません。副反応はありませんでした。
 
 村中さんの受賞を知った後に、彼女の著作を読んでみました。
  薬害でっちあげ あまりに非科学的な子宮頸がんワクチン阻止運動―新潮45eBooklet
刺激的なタイトルですが、中身は丁寧な取材をして資料を客観的に読み、メディアに流れた症状とワクチンの有意な因果関係が科学的に証明されず、厚労省研究班が発表した「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究事業」の研究結果の一部に不正があったとして雑誌記事上で批判したことも書かれています。その後研究を担当した元教授の所属した大学は調査委員会を設置し、「マウス実験が各ワクチン一匹のマウスを用いるなど初期段階のものであったにもかかわらず、実験結果を断定的に表現した記述や不適切な表現が含まれていたことで、科学的に証明されたかのような情報として社会に広まり混乱を招いた」と発表し、厚生労働省も「不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての〇〇氏(元教授の名)の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております」という見解をサイト上に掲載しました。しかし村中さんは実験をおこなった元教授から「雑誌記事が研究成果を捏造だと断定したのは名誉毀損である」と訴えられ、村中さんを快く思わない人々から村中さん自身と家族に山のような脅迫状が届いたそうです。出版社への圧力もかかり、連載中だった村中さんの記事は全て打ち切られ、先の書籍の出版も中止され、その後日本を代表する8つの出版社に断られたが、9番目の出版社からやっと刊行されたと打ち明けています。
2月には新刊も出版されるようです。
  10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか 2018年2月9日
 
 医学的な検証には作為にならない対象の設定がまず必要です。そして出てきた結果に対する医学的・統計的検証、その結果にたいする客観的に証明できる結論を出さなければいけません。子宮頸がんワクチンの副反応とメディアが流している症状は、ワクチンを
接種したグループと未接種のグループで症状の発生には差がないという結論が、名古屋市の調査と厚生労働省研究班の疫学調査から出ています。一方、副反応だとする医師たちはその症状を子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS(ハンス)概念で説明しますがその説明には医学的検証はできておらず、症状からの推測の積み重ねの域をでていません。
 もちろんどんな病気にも従来の考えでは説明できない例外はあります。しかし一見インパクトの強いセンセーショナルな意見のみ取り上げ対立する意見を無視し、しかも攻撃するような風潮は戒めるべきでしょう。
 子宮頸がんワクチンをしないことの不利益、千人単位の女性が毎年なくなること、そして後遺症とされる身体異常に客観的に有効な治療をおこなってあげること。この点について世間は今一度冷静に考え直すべきでしょう。
 
 村中さんは以下のように書いています。
 子宮頸がんワクチンは、我が国において「思春期の少女だけ」に接種されることになった初めてのワクチンだ。「ワクチンによって患者が生まれた」のではなく「ワクチンによって、思春期の少女にもともと多い病気の存在が顕在化した」、そう考えるのが自然ではないだろうか。
 少女たちが苦しんでいることは事実で、少女たちは決して悪くない。騒ぎの責任は大人たちにある。しかし、少女たちの苦しみの原因がワクチンにあると断定する科学的裏付けは一体どこにあるのだろうか。
 村中さんが記事を書き続けていた、月刊誌『Wedge』(ウエッジ)のサイトは
特集:子宮頸がんワクチン問題
http://wedge.ismedia.jp/ud/special/567771a3b31ac90fb0000001
 
 最後に村中さんのジョン・マドックス賞受賞のスピーチの一部を引用します。スピーチの全文は以下のサイトから見れます。
ジョン・マドックス賞受賞スピーチ全文「10万個の子宮」
https://note.mu/rikomuranaka/n/n64eb122ac396
 
「ジョン・マドックス賞」の受賞スピーチからの一部引用
日本では毎年、3000の命と1万の子宮が失われている。
母校北海道大学で講演をした際、ひとりの若い産婦人科医が私にこう尋ねた。
――僕たちだけあとどのくらい子宮を掘り続ければいいんですか。
子宮を「掘る」、すなわち子宮を摘出するという意味だ。
 日本では国家賠償請求訴訟が終わるまでには10年を要すると言われる。また、訴訟が終わるまで、接種再開を決断できる首相や官僚は出ないだろうとも言われる。よって、もし子宮頸がんワクチン接種再開まであと10年を待つ必要があるとすれば、日本人の産婦人科医は、いったいいくつの子宮を掘りだせばいいのだろうか。
 答えは「10万個」だ。
 掘り出した10万個の子宮を想像してほしい。その持ち主である女性たち、そこから生まれ母を失った子どもたちを。そこから生まれてくるはずだった子どもたちを。

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