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2010年3月31日 (水)

人工臓器、日本のギャップ

 22日の朝日新聞のGlobe(グローブ)に「人工臓器、日本のギャップ」というタイトルで最先端の医療の治療に使う機器の記事が載っていました。

[人工心臓]移植待機の日本人、ドイツで「難民化」の理由
[糖尿病治療、手術用ロボット]「10年尾年遅れ」というダバイス・ラグ
審査と承認、なぜヨーロッパが日米に先行するのか
[米ミネアポリス、独ベルリン]クラスターに集う産学が開発を加速
治療系機器、開発阻む「非協力」の壁
以上のようなサブタイトルが並んでいました。

 人工心臓では日本のテルモ社の人工心臓が世界的に優秀だそうです。ドイツでは人工心臓の主役だそうです。しかし開発会社のある日本では使えません。日本では国が使用を認可した人工心臓は国立循環器病センター型(国楯型)といわれる20年前に承認された旧式のもので、血栓ができやすく、1ヶ月以上はつけることはできないものです。ドイツでは心臓移植が間に合わない患者には一時的に人工心臓がつけられますが、安全性と耐久性に優れたテルモの人工心臓をつけるとしばらくは待てると判断されて移植の順番が下がりますが、国循型をつけると長期は危ないということで順番が上がるそうです。ドイツでテルモの人工心臓をつけた患者さんは長い間移植を待たされるので、いわゆる「難民化」してしまいます。
 人工臓器などの新しい医療機器が使えるようになるのは、欧州、米国、日本の順番になることが多いようです。これは医療機器の審査と承認の考え方の違いがあるからです。欧州では承認は民間の機関から得て、安全性は多くは動物実験で確認するだけです。米国は政府が承認しますが審査をするスタッフの層も厚く人数も多くいます。日本は審査するスタッフも専門家も少ないのが現状です。
 また日本では医療機器で事故が起きたときの責任追求と風評被害が大きいため、日本企業も開発には慎重になりやすく、良い器機を開発しても国内ではなく、海外で市場を求めることが多いようです。その結果、日本人は新しい医療機器を使える機会がなくなってきています。

 医療機器の開発には健常人や患者さんの協力が必要な臨床治験を必ず行わなければいけません。しかし日本では治験と言えば人体実験をされるような印象が強くて患者さんの理解を得るのが難しいのが現実です。この点も日本では新しい医療機器や新薬の開発が難しくしています。欧米では以前から治験のシステムが確立されており、新しい治療に自ら参加しようとする患者さんも多く、日本よりはるかに治験が行いやすい環境にあります。
 私は小児科医なので同じことをワクチンで感じています。先月から接種できるようになった肺炎球菌ワクチンの治験が一昨年前に行われました。今回認可された肺炎球菌ワクチンは10年前から世界約100ヵ国で使われているものですが、一昨年前に治験をしたワクチンはそれよりもさらに新しい世代のワクチンで、昨年米国で承認されたものでした。今、日本では肺炎球菌ワクチンの噂を聞いて、1回約1万円の接種費用にもかかわらず、接種希望の保護者が多くいらっしゃいます。しかし治験の時には医師がどんなにこのワクチンがよいワクチンか説明しても拒否されることもしばしばでした。
 新しい医療機器や薬を早く利用できるようになるには、行政の審査・承認の問題だけでなく、開発に対する国民の理解がなければ難しくなります。しかし医療への国民の理解は、医療側の国民への説明と理解と信頼を得る不断の努力がなければ培われないものでしょう。

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