« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月30日 (土)

レベッカ・ブラウン著 「家庭の医学」

 「家庭の医学」というタイトルが付いていますが、これは一般向けの医学辞典ではありません。アメリカの作家であるレベッカ・ブラウンが2001年に発表したノンフィクションです。作家の母が癌を患ったときの、介護から最後の見取りまでを綴った作品です。全部で16章からなる作品ですが、各章のはじめには「貧血」や「転移」などの医学用語が記されています。そしてその下には簡潔に用語の説明も付いています。これがタイトルの由来かも知れませんが、この無機質な医学用語が、読んでいて感傷的になりやすくなる読者に対して、客観的な意識を取り戻す糧となっているのかもしれません。母を看取る娘のお涙頂戴の話ではなく、静かな文章で母への介護、母の死が避けられないことを受け入れ、最後に母との別れを綴っています。普通なら気が動転するような状況の中でも作者は冷静的にと言えるほどの細かい観察で、母や自分が避けられない状況の変化を受け入れていく様を書いています。それがかえって読む者の胸に訴えてきます。
 私は医師ですから、この本の中でアメリカの医師が本人や家族に病像を如何に伝えているのかに興味を惹かれました。相手の呼吸を確かめるようにして話を進める様は印象的でした。医師にとって、患者はえてして多数の中の一人になりがちで、説明も通り一遍なものになりがちですが、患者からみれは一人一人が個別の問題なのです。そのことを忘れないようにしなければいけないのですが。
 ところで、この本の最後の章「火葬」の結末は少しショッキングでした。興味のある方はご一読下さい。

| | コメント (0)

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »