身長190cmを超える大谷選手だけでなく、バレーボールやバスケットボールなどでも、世界の選手に引けを取らない体格の日本人選手が活躍しています。
ところが、日本人全体を統計で見てみると、少し違った姿が見えてきます。
先日、日本経済新聞7月4日付の中村直文編集委員の記事に、日本人の身長が伸び悩んでいるという興味深い話が載っていました。
日本人の身長は、明治以降、栄養状態や生活環境の改善とともに大きく伸びてきました。
戦後、とくに高度経済成長期には急速に伸び、一時はアジアの中でも比較的身長の高い国になりました。
ところが、その伸びが止まっています。
中国や韓国の若者に追い越された日本
日本経済新聞の記事には、英医学誌「The Lancet(ランセット)」に発表された研究をもとに、世界各国の若者の平均身長を比較した図が掲載されていました。
この研究はNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)という国際的な研究グループによるもので、世界200カ国・地域、2181の調査、約6500万人のデータを解析した非常に大規模な研究です。
2019年の19歳男性の平均身長を比べてみると、
中国 175.7cm
韓国 175.5cm
日本 172.1cm
となっています。
かつて日本より小柄だった中国や韓国の若者が、今では日本を上回っています。

図:東アジア3か国の19歳男性の平均身長(2019年)
中国 175.7cm/韓国 175.5cm/日本 172.1cm
出典:NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC), The Lancet 2020をもとに作成
とくに中国の変化は目立ちます。
1985年から2019年までの約35年間で、中国の19歳男性の平均身長は大きく伸びました。ランセットの研究では、この期間の男性の身長の伸びは中国が世界で最も大きく、韓国も世界で3番目でした。
一方、日本では大きな伸びがみられなくなっています。
豊かな国なのに、なぜ背が伸びないのでしょう
身長には遺伝が大きく関係します。
両親が小柄であれば子どもも小柄になりやすく、両親が背が高ければ子どもも高くなる傾向があります。
したがって、日本人の身長がある程度まで伸びたところで、遺伝的な限界に近づいたという考え方もあります。
ただ、それだけなのでしょうか。
日本経済新聞の記事で注目されていたのが、日本人の食生活の変化です。
今の日本には食べ物があふれています。
コンビニやスーパーに行けば、いつでも好きなものを食べることができます。「飽食の時代」といわれ、子どもの肥満も問題になっています。
ところが、日本人全体が実際に摂取しているエネルギーは、むしろ減少してきています。
食べ物がたくさんあることと、成長期に必要な栄養を十分にとっていることは、必ずしも同じではありません。
小児科医としては、ここが少し気になります。
もう一つ気になる「出生体重」
日本の若い世代の身長について、もう一つ興味深い研究があります。
国立成育医療研究センターが、日本人約315万人の成人身長と、約6412万人の出生時のデータを解析しています。
その結果、日本人の成人平均身長は1978~79年生まれでピークとなり、
男性 171.5cm
女性 158.5cm
でした。
ところが、それ以降に生まれた世代では、平均身長が少しずつ低下する傾向がみられました。
一方、日本では2500g以下で生まれる低出生体重児が増えています。
1970年代後半には約5%だった低出生体重児の割合が、2007年には9.7%まで増えました。
そしてこの研究では、低出生体重児の割合が高くなった世代ほど、成人後の平均身長が低いという強い関連がみられました。
研究者は、低出生体重児の増加が日本人の平均身長低下の一因になっている可能性を指摘しています。
もちろん、これは「低出生体重児が増えたから日本人の身長が低くなった」と単純に証明した研究ではありません。
しかし、子どもの成長を考えるときには、生まれてからの食事だけではなく、お母さんのお腹の中にいるときからの栄養や成長環境も大切なのだろうと思わせる研究です。
子どもの成長は、お腹の中から始まっています
以前の日本では、妊娠中に体重が増えすぎないようにすることがかなり重視された時期がありました。
もちろん妊娠中の過度な体重増加には注意が必要ですが、反対に、必要以上に食事を制限することも望ましくありません。
子どもの成長は、生まれた日から始まるわけではありません。
お母さんのお腹の中にいるときから、すでに始まっています。
そして生まれた後も、乳幼児期、学童期、思春期と、それぞれの時期に必要な栄養があります。
「背が高いほうがよい」という話ではありません
ここで誤解していただきたくないのですが、背が高ければよく、低ければ悪いという話ではありません。
身長には大きな個人差があります。
お父さん、お母さんが小柄であれば、子どもが小柄なのは自然なことです。
小柄であっても、その子なりの成長曲線に沿って元気に育っていれば、多くの場合は心配ありません。
私が気になるのは、
今の日本の子どもたちは、本来持っている「成長する力」を十分に発揮できているだろうか
ということです。
診察室で気になること
日々子どもたちを診察していると、肥満の子どもがいる一方で、とても細い子どもにも出会います。
小学生ではそれほど気にしていなくても、中学生、高校生になると、「太りたくない」という気持ちが強くなり、食事量を減らしてしまうことがあります。
朝食をほとんど食べない子もいます。
また、スマートフォンやゲームなどで就寝時間が遅くなり、睡眠時間が短くなっている子どもも珍しくありません。
成長期には、栄養だけではなく、睡眠も大切です。
身長が伸びる時期には限りがあります
子どもの身長が大きく伸びる時期は限られています。
特に思春期には急速に身長が伸びますが、その後、骨の成長が終了すると身長はほとんど伸びなくなります。
大人になってから、
「もう少し食べておけばよかった」
「もう少し早く寝ておけばよかった」
と思っても、成長期をもう一度やり直すことはできません。
だからといって、「身長を伸ばす」と宣伝されているサプリメントや特別な食品が必要なわけではありません。
もっと基本的なことが大切です。
しっかり食べる。
よく眠る。
よく体を動かす。
昔からいわれてきた、ごく当たり前の生活です。
成長期の子どもには、肉、魚、卵、牛乳・乳製品、豆類などからたんぱく質をとり、ご飯などの炭水化物もしっかり食べてもらいたいと思います。
「太らないように」と必要以上に食事を減らすことは、少なくとも成長期の子どもには勧められません。
身長は、子どもたちの生活を映す「ものさし」なのかもしれません
日本人の平均身長が伸びなくなった理由は、一つではないでしょう。
遺伝的な要因もあれば、妊娠中の母体の栄養、出生体重、乳幼児期から思春期までの食生活、睡眠、運動など、いろいろな要因が関係していると思います。
ですから、中国や韓国より日本の若者の身長が低くなったこと自体を問題にする必要はありません。
ただ、日本経済新聞の記事を読んでいて、私は少し考えさせられました。
日本はこれだけ豊かな国になり、食べ物も十分にあります。
それなのに、若い世代の身長は伸びなくなっています。
そして、低出生体重で生まれる赤ちゃんも決して少なくありません。
日本の若者の身長が伸びなくなったという数字は、単なる「背の高さ」の問題ではなく、日本の子どもたちの栄養や生活環境を映している一つの「ものさし」なのかもしれません。
子どもたちを少しでも背が高くなるように育てる、ということが目的ではありません。
一人ひとりの子どもが生まれながらに持っている成長する力を、できるだけ十分に発揮できるようにする。
そのために、よく食べ、よく眠り、よく遊ぶ。
やはり、そんな当たり前の生活を大切にしてほしいと思います。
【参考】
日本経済新聞 7月4日付 中村直文編集委員の記事
NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC).
Height and body-mass index trajectories of school-aged children and adolescents from 1985 to 2019 in 200 countries and territories.
The Lancet. 2020;396:1511-1524.
国立成育医療研究センター
「日本人の平均身長は低下傾向―低出生体重児増加が影響している可能性あり―」
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